一覧に戻る

マニフェストに着目を 検証可能な数値が前提

―今回の統一地方選からマニフェスト(政権公約)の配布が首長選でも解禁されました。

 マニフェスト元年といわれた03年から4年がたち、マニフェストの考え方がかなり浸透してきた。既存の公営選挙の枠内での改革にとどまったため、A4一枚という制約はあるものの、複数の候補者がマニフェストの中身を競い合う政権選択選挙に向けた条件整備の第一歩とはいえる。

―従来の選挙公約とマニフェストの違いは。

 選挙公約は「あれもします」「これもします」と並べるだけで、実行されないものの代名詞になっているあり様だ。これに対し、マニフェストは候補者が有権者に「自分が政権をとったらこの政策をやります」と約束し、数値目標、財源、期限などの根拠を盛り込んで明示するものだ。実行されたかどうかを後で検証できることが前提で、それが従来の選挙公約との最大の違いだ。

説得力見極めて

―マニフェストが導入されると選挙はどう変わるのでしょうか。

 候補者にとっては、大きな責任の自覚につながる。約束した政策が実行できなかった場合、次の選挙で有権者に「ノー」を突きつけられるからだ。

―よいマニフェストの見分け方は。

 まず、候補者本人がこれはマニフェストだと称していても、数値などの根拠がないと、検証が不可能だし、政策どうしの整合性や優先順位を読み取ることもできない。ちゃんと練られた政策なのか、それとも思いつきで言っているだけなのか、区別がつかないので失格だ。一言で言えば、見栄えより説得力だ。

―現職候補に求められるものは。

 現職首長の場合、4年間の任期中の行政実績をみずから評価することが不可欠だ。何ができて何ができなかったのか、それを踏まえて再選されたら何をするのか。前回選挙でマニフェストを掲げていたかどうかは関係ない。現職なのに実績評価抜きというのは、いただけない。

―新顔候補の場合はどうですか。

 やはり、現職候補の4年間の行政実績を評価をしたうえで、自分が当選したらどうするのか、政策の方向性をきちんと示し、具体的な政策に落とし込むことが求められている。「見直します」「当選してから検討します」では、有権者に対して「自分を選んでください」と売り込む迫力に欠ける。

―新顔候補は実績がなく、行政データを握っている役所のスタッフも使えない分、不利です。

 実績のなさを補うべく、自分は過去に何をしてきたのか、どれくらい信用できるのかを、説得力のある言葉で書けているかどうかがポイントだ。データの面では不利だが、首長がマニフェストの重要さをよく理解している自治体では、役所に担当窓口を設け、挑戦者にも行政データを提供している。そうした動きが広まることを期待したい。

議員こそ評価者

―自治体の行政のあり方も変わりますか。

 マニフェストを掲げて当選し、実行できる態勢をつくり上げて政策を実施する、その実績を評価して、再び選挙に挑む、という一連の流れができることが重要だ。私たちはマニフェストサイクルと呼んでいる。マニフェストに熱心だった増田寛也知事が引退する岩手県で、せっかくできかかったサイクルが断ち切られかねない状況なのは残念だ。だが、それなら県民が引き継ごうじゃないか、と、地元青年会議所などが2月にマニフェスト検証大会を開き、知事選立候補予定者にも参加を呼びかけたことは評価したい。

―今回のマニフェスト解禁は首長に限られ、議員は対象外です。

 個々の議員の責任でできることは限られ、首長と同列には扱えない。ただ、議員の候補者が、政務調査費問題など議会の責任でできることを公約に掲げるのは大いに結構だ。

―首長のマニフェストと地方議員との関係をどう考えますか。

 地方議員の最大の役割は、首長が掲げた政策をチェックし、行政の実態を監視することだ。それはマニフェストの存在で初めて鮮明に浮かび上がる。外部評価、第三者評価が必要だという議論もあるが、実は議員こそがマニフェストの最大の評価者なのだ。

―現実には首長への支持・不支持をはっきりさせない候補者が多いですね。

 地方議員は首長のマニフェストへの賛否を明言して選挙に挑むのがスジだ。「県民党」だとか「市民党」だとかいうあいまいな態度はマニフェスト時代には通用しない。宮城県議選で東国原英夫知事支持を明言する候補が話題になっているが、そのような動きが出てくるのは、ある意味では当然のことだ。

(聞き手・大野博)

マニフェストの歴史(肩書きは当時)

1834年 英国のピール首相が有権者に「タムワース・マニフェスト」と題する文書を配布。翌年の総選挙で保守党の基本方針に採用される。マニフェストの起源とされる

1987 英サッチャー政権与党の保守党が総選挙に向け、政策の数値目標や期限を明示したマニフェストの冊子を作成(いまのマニフェストの原型)

2003 北川正恭三重県知事がマニフェスト導入を提唱。4月の統一地方選で行われた11知事選のうち、八つで候補者がマニフェストを掲げる

菅直人民主党代表が国会の党首討論でマニフェスト導入を主張。明言を避けた小泉首相ものちに導入を決断、11月の総選挙は「マニフェスト選挙」に

慶応大大学院教授 曽根泰教さん
そね・やすのり 48年生まれ。専門は政治学、政策分析論。マニフェストの普及、検証に取り組む。

一覧に戻る